ハンマー鍛造とは?プレス鍛造とは?ハンマー鍛造とプレス鍛造の違いは?

ハンマー鍛造やプレス鍛造という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

鍛造加工のための鍛造機械には、大きく分けて、ハンマーとプレスの2種類があります。ハンマー機械は、ハンマーで金属材料を打撃して鍛造加工を行います。主に熱間鍛造で使用されます。

プレス機械は、油圧やモーターなどにより圧力をかけて鍛造加工を行います。プレス鍛造による鍛造加工には、冷間鍛造、温間鍛造、熱間鍛造があります。

(ここで言うプレス機械は、一般的なプレス加工のためのプレス機ではなく、プレス鍛造のための鍛造機械です。「フォージングプレス」という言い方をすることもあります)

ハンマー機械による鍛造を「ハンマー鍛造」、プレス機械による鍛造を「プレス鍛造」と言います。

(扱う設備が異なるために、国家資格である技能検定制度の鍛造技能士の型鍛造作業も「ハンマ型鍛造」と「プレス型鍛造」に分けられています。ハンマ型鍛造は、ハンマ型鍛造作業」、プレス型鍛造は「プレス型鍛造作業」です)

ハンマー鍛造とプレス鍛造はどのように違うのか。それぞれのメリットや留意点についてまとめました。

 

1. ハンマー鍛造のメリットと課題は

ハンマー鍛造では、ハンマーで金属材料を打撃して鍛造加工を行います。硬い材料や複雑な形状が求められる加工に適しています。

打撃を打ち込みやすいので一般的に円盤のような厚みの薄い製品も鍛造可能です。また、打撃力や回数を調整することで、鍛伸、曲げ、据え込みなど製品形状にあわせた柔軟な加工を得意としています。成形速度(加工速度)が速い点もメリットです。

一方で、作業者の熟練度合いが品質に大きく影響し、寸法にバラツキが生じることがあります。

なお、「ハンマー鍛造」の主要な設備には、エアハンマーとエアードロップハンマーがあります。両者の特徴や違いは以下の通りです。

(1)エアハンマーとは

エアハンマーは、圧縮空気を利用し、取り付けられた上金型を垂直方向に動かし、材料を鍛造します。この機械を弊社では主に材料を鍛伸する時に使用しており、製品の大まかな形状を作りながら、歩留まり率(材料の利用効率)を向上させることができます。※据え込み→鍛伸の工程もあります

例えば、エアハンマーを使用しない工法で70%だった歩留まり率を85%まで向上させた事例もあります。

フリー鍛造について → こちらからご覧いただけます

(2)エアードロップハンマー(エアースタンプハンマー)とは

エアードロップハンマーは、ラムと上金型の落下重力のエネルギーを利用し鍛造する設備です。垂直に持ち上げたラムと上金型を圧縮空気を使い落下させ、上金型と下金型を衝突させた打撃エネルギーで鍛造を行います。その落下速度は高速のため、成形速度が速いのが特徴です。

※たいやき機の様に、使用する上金型と下金型には製品の形状が彫刻されているため、ハンマーの打撃によって製品形状を造り込みます。

一般的には、エアハンマーで鍛伸された後、エアードロップハンマーが目的の製品形状に近づけます。エアハンマーとエアードロップハンマーの2つを組み合わせることで、歩留まりを高め、複雑な形状の製品を造ることが可能です。

型鍛造について → こちらからご覧いただけます

2.プレス鍛造のメリットと課題は

一方、プレス鍛造には、機械鍛造プレスやスクリュープレス(フリクションプレス)などがあります。ハンマー鍛造もプレス鍛造も上金型と下金型が必要であることは変わりありません。

(1) 機械鍛造プレスとは

機械鍛造プレスは、一定のストロークで圧力をかける鍛造プレス機械です。(※機械プレスでは言葉の範囲が広いと感じたため、あえて機械鍛造プレスと表記しております)圧力量が一定であるため、精密な加工が可能であり、安定した品質が得られる点が特徴です。

(2)スクリュープレス(フリクションプレス)とは

スクリュープレス(フリクションプレス)は、フライホイールの回転エネルギーを利用して大きな瞬間的加圧力を発生させる鍛造プレス機械です。

機械鍛造プレス、スクリュープレス(フリクションプレス)とも、均一な精度と量産性が強みです。プレス鍛造は、大量生産や寸法精度が厳密に求められる製品を効率よく生産する場合に適した鍛造方法です。

また、プレス鍛造では、1工程、1ショットで1つの金型を製作するため、複数工程を1つの金型で行うハンマー鍛造と比べて金型費が比較的安価である点もメリットです。一方で、形状や製品サイズによっては、プレス鍛造では対応できない場合があります。

3.ハンマー鍛造かプレス鍛造か。選択の基準は?

上記の通り、ハンマー鍛造とプレス鍛造は特性が異なります。したがって、用途や製品の要求精度、必要な効率などから、適した方法を選択する必要があります。ハンマー鍛造とプレス鍛造をどう使い分けるべきなのか。下表にまとめました。(プレス鍛造については、スクリュープレスの場合を記載しています)

  ハンマー鍛造 プレス鍛造(スクリュープレス)
適した用途 硬い材料や複雑な形状が求められる加工。打撃を打ち込みやすいので一般的に円盤のような厚みの薄い製品も鍛造できる。 大量生産や寸法精度が厳密に求められる加工
メリット・特徴 ・成形速度が速いが、寸法精度のバラツキが発生しやすい。
・同じ個所で何度も打撃できる。
・打撃力や打撃回数を調整することで、鍛伸、曲げ、据え込みなど、製品形状にあわせた柔軟な加工が得意
・安定した力で加工するため、寸法のバラツキが小さい製品を効率よく生産することが可能
・1工程、1ショットで1つの金型を製作するため、複数工程を1つの金型で行うハンマーと比べて金型費が比較的安価
課題 作業者の熟練度合いが品質に大きく影響し、寸法にバラツキが生じることがある。 形状や製品サイズによっては対応できない場合がある。

なお、スクリュープレスはハンマーと似た動作をする部分もありますが、特徴として、材料を金型に対して垂直に置く縦打ちでラムストロークとノックアウトストロークを長く確保できるため、長尺物の鍛造に向いています。対して、ハンマーは垂直方向のストロークを確保しづらいため、長尺物を鍛造する場合は材料を横に置いて(金型と平行に置く)鍛造します。

また、近年のスクリュープレスのモデルでは、フライホイールではなくサーボモーターによる制御を採用しています。プログラムにより力を細かく調整することで、精密加工とエネルギー効率の両立を図っています。エネルギー効率の観点では、ハンマーは空圧(エアー)による制御を油圧に置き換えた油圧ハンマーも登場しています。

4.サーボモーターや油圧など制御技術の導入やIoT・AIによる効率化

近年、サーボモーターや油圧など制御技術が導入され、「叩いてみないと分からない」が徐々に解消される傾向にあると感じています。さらにIoTやAIの活用が進めば、加工の精度と効率はさらに向上していくと考えられます。

効率の面では、ハンマーやプレスの動作や稼働状況をリアルタイムでモニタリングし、加工条件を最適化することで、これまで以上に高品質な製品を生産することが可能になりました。

しかし、機械の進化に頼るだけでは十分ではありません。加工の基本原理や各機械の特性を理解した上で、製品設計や加工条件を最適化することが、今後も技術者に求められる重要なスキルと考えられます。

ハンマー鍛造とプレス鍛造、どちらの機械も一長一短があります。それぞれの特性を理解し、製品の要求精度や生産量、材料特性に応じて最適な方法を選択することが重要です。

なお、プレス鍛造の機械については、日本鍛圧機械工業会の「鍛造プレスとは<入門編>」に詳しく説明されています。同資料から、比較表を以下に引用紹介します。

冷間・温間・熱間鍛造の比較(鉄鋼材料)【※ 単位はmm】

比較項目 冷間鍛造 温間鍛造 熱間鍛造
1 鍛造温度 常温 200℃~900℃ 1150℃~1250℃

 

 

2

 

 

鍛造工程

(1)切断

(2)焼鈍

(3)潤滑

(4)鍛造

(1)切断

(2)プレコーティング

(3)加熱 200~900℃

(4)鍛造

(5)トリミング

(1)切断

(2)加熱1150~1250℃       

(3)鍛造

(4)トリミング

3

潤滑

ボンデライト  +   ボンダリュー(+MOS2) グラファイト + 水(油)(+MOS2) グラファイト

 

 

 

 

4

 

 

 

 

設備


プレス

ナックルプレス
油圧プレス

クランクプレス
ナックルプレス
油圧プレス
スクリュープレス
クランクプレス
ハンマー
アップセッター
スクリュープレス
加熱炉
焼鈍炉
焼鈍炉(無酸化) 高周波加熱炉
回転炉
トンネル炉  他
高周波加熱炉
回転炉
トンネル炉  他
潤滑処理 ボンデライト・   ボンダリューベ処理 プレコーティング
ショットブラスト 必要

 

 

 

5

 

 

 

品質

脱炭層※ < 0.1 < 0.2 < 0.4
表面粗さ < 6S < 10S < 20S
組織 微細 微細 粗大

 

抜き勾配

なし

なし

2°~ 7°

厚さ  ±0.1 ~±0.25 ±0.1 ~ ±0.4 ±1 ~ ± 2
内外径

±0.02 ~ ±0.2

±0.1 ~ ±0.2

±0.5 ~ ±1.0

偏肉 0.05 ~ 0.2 0.1 ~ 0.4 0.7 ~ 1.0

 

6

 

適合 材質

低炭素鋼
中炭素鋼
高炭素鋼 ×
高合金鋼 ×

出典:一般社団法人 日本鍛圧機械工業会鍛造プレス専門部会:鍛造プレスとは<入門編>
一般社団法人 日本鍛圧機械工業会 → ホームページはこちらから

上表からも「どの機械設備で鍛造するか」と「どの鍛造加工を選択するか」が重要であることがわかります。

なお、ハンマー鍛造、プレス鍛造は、鍛造機械による鍛造加工の分類です。他に加工温度の違いによる分類(冷間鍛造、温間鍛造、熱間鍛造)、型の使用有無による分類(型鍛造、フリー鍛造)があります。

川上鉄工所は、ハンマー鍛造で熱間鍛造を行っている会社です。型鍛造、フリー鍛造の両方を行っています。

※保有設備については、設備紹介ページをご参照ください。
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