ダマスカス鋼とは?ダマスカス鋼の波紋の要因は?包丁の語源は?

藤次郎(新潟県燕市)のダマスカス製の庖丁(ほうちょう)

 

 

ダマスカス鋼という言葉を聞いたことがありますか?
包丁やナイフで「ダマスカス」という言葉を見かけたことがあるかもしれません。

ダマスカス鋼(別名ウーツ鋼)とは、古代インドで作られていた優れた鋼材です。ちなみに、ダマスカス鋼という名前は「シリアの首都ダマスカスで製造されていた刀剣に、ウーツ鋼が用いられていた」ことに由来します。
インドでは紀元前から高度な製鋼技術が発展しており、質の高いハガネを生産していました。

インドのデリーに「デリーの柱」という有名な古代の鉄柱があります。
「デリーの柱」とは1600年前に作られた、高さ7mの巨大な鉄柱で、人々から「神秘の鋼」と呼ばれています。 筆者自身、この記事を書くにあたり「デリーの柱」を知りました。いつか自分の目で確かめに行きたいです。

この鉄柱は、鉄分99.72%という高純度の鉄で造られており、1600年以上経った現代でも錆びていません。
この鉄柱に使われた鉄鋼材は、ダマスカス鋼で作られているのはないかと言われています。

1.ダマスカス鋼の研究がステンレス鋼の材料開発のきっかけとなった

ダマスカス鋼はもともと、柱の鋼ではなく、刃物用の鋼として発達したものです。
ダマスカス鋼はその強靱さ、錆びにくさ、そして表面に浮かぶ美しい波紋が特徴です。

ダマスカス鋼製の剣は王家の家宝として伝えられましたが、その製法は一子相伝で伝えられてきました。
そのため、現在ではその製法は明らかにされておらず、謎に包まれています。

19世紀には、インド製のダマスカス鋼は英国に渡り、英国王立協会で研究が始まりました。英国王立協会でこの研究を担ったのが、著名な科学者であるマイケル・ファラデーと、鋼鉄製造者のジェームズ・ストダートです。

ダマスカス鋼をお手本にして、この2人が錆びにくい鉄の研究を始めたのが1820年頃のことです。当時の研究では、基礎的な研究結果が蓄積されたものの、現在のステンレス鋼とよばれる材料開発には至りませんでした。

この研究の一環として、ダマスカス鋼をお手本にアルミ、ニッケル、クロム、銀などさまざまな合金を溶解るつぼで溶かす研究が行われました。その結果、白金を10%添加した鋼が屋内に長く放置しても錆びないことが確認されました。この白金鋼はダマスカス鋼に次ぐ「二番目のステンレス」と呼ばれています。

1913年に、イギリスの冶金学者ハリー・ブレアリーが、クロム含有率が12%以上の鋼が非常に錆びにくいことを発見し、この発見が今日のステンレス鋼の基礎となりました。

ファラデーとストダートの研究では、ステンレス鋼の開発には至らなかったものの、基礎的な研究結果が蓄積されました。特に、鉄にクロムやその他の元素を添加することで耐食性が向上することを示したことは、ステンレス鋼の基礎理論を形成しました。

そのため、ダマスカス鋼の製法の研究は金属加工の歴史において、重要な意味を持っていると言えます。

2.現代の包丁やナイフのダマスカスの波紋の要因は?

では、現代のダマスカスの包丁やナイフに見られる、独特な波紋はどのようにしてできるのでしょうか。

本来のダマスカス鋼は、鋼に含まれる炭化物が鍛造過程で炭化物の並び(配列)が変わり、その結果、波状の模様が現れる鋼です。この模様は、鋼の中に含まれる炭化物が鍛造と熱処理を繰り返すことで表面に現れ、独特なパターンを作り出します。

現代のダマスカス鋼は、異なる金属を何層にも重ね合わせ、鍛造することで模様を作り出しています。これにより、模様は鍛造によって形成されます。これは多層に重ねた金属が鍛造の過程で、組織が均一になり、硬度が向上し、単一の素材に比べて包丁などの刀身の変形が少なくなるためです。

3.包丁の語源は?

ちなみに、包丁の語源をご存じでしょうか。

包丁は本来「庖丁」と書きます。「庖」は厨房・台所を指します。「丁」は成人男性を意味します。
つまり、「庖丁」とは、台所で働く成年の召使男性のことです。

中国の古代の書物「荘子」に、とある庖丁(あえて言い直すなら『庖丁さん』、でしょうか)が登場する逸話があります。

ある庖丁が魏の恵王の御前で見事な刀捌きを披露したというお話です。その庖丁は、牛一頭を素早く解体して見せ、魏の恵王を感銘させたのだそうです。

つまり、成人の召使男性が包丁の語源になります。庖丁さんが愛用した庖丁刀を「庖丁」と呼ぶようになったということです。包丁という身近な日用品の名称にも、長い人類の歴史が背景にあると考えると興味深いですね。

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参考文献:庖丁の知識 (藤次郎株式会社) → 藤次郎オンラインショップはこちらから
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