非調質鋼とは?非調質鋼の特徴や用途は?具体的な製造プロセスは?

川上鉄工所は熱間精密鍛造を行っている会社です。創立以来、製造業として、顧客要求を満たす、品質、納期、コストのものづくりに取り組んできました。

一方で近年では、製造業が満たすべき要求水準が高度化しています。具体的には、省エネルギー、CO2排出量削減などの環境負荷軽減策や、さらなるコスト削減が求められるようになってきています。

そんな中、注目されているのが「非調質鋼」(ひちょうしつこう)です。この記事では、非調質鋼の特徴、用途、製造プロセスについて解説します。

また、非調質鋼と類似の当社の鍛造事例についてご紹介します。

 

1.非調質鋼とは?

非調質鋼とは、鍛造品を焼入れや焼戻しなどの調質処理をせずに、そのまま使用できる鋼材のことです。「調質」とは、鋼(はがね)の熱処理方法の一つで、焼入れと焼戻しの2つの工程を組み合わせたものです。

「焼入れ」とは、鋼を高温に加熱し、急冷することで硬くする処理です。その後、再び加熱、急冷する「焼戻し」を行うことで、内部応力を取り除き、適切な靭性(ねばり強さ)を付与します。

使用用途によりますが、鍛造品は調質という熱処理工程によって、必要な機械的性質(強度や靭性など)を付与しています。一方で、非調質鋼は、調質処理を行わなくても、強度や靭性などの機械的性質が確保されるように成分調整されています。

具体的には、バナジウム、ニオブ、チタンなどの合金元素を微量に添加し、熱間圧延や熱間鍛造時に温度や冷却速度をコントロールすることで、調質を行わなくても、調質鋼と同等の強度や靭性を確保できるように調整されています。

非調質鋼の種類と化学成分 → 愛知製鋼株式会社様の場合

非調質鋼は、熱処理を行わなくとも、優れた強度、硬度、靭性を確保できるので、製造コスト削減や環境負荷の低減につながる点に大きな利点があります。

非調質鋼の特徴 内容
1.調質処理が不要 ・焼入れや焼戻しをせずにそのまま使用できる。
・製造工程の簡略化により、コスト削減や環境負荷低減が可能。
2.機械的性質が安定 ・合金元素の添加や冷却速度の調整により強度や靭性を確保できる。
・熱処理による変形が発生しないため、寸法精度を保ちやすい。

2.非調質鋼の用途は?

非調質鋼は主に、自動車部品、建築構造用鋼材、機械部品などに使用されています。

【主な用途】
・自動車部品(シャフト、ボルト、ギア など)
・建築構造用鋼材(鉄骨や橋梁 など)
・機械部品(歯車、ピン、軸 など)

非調質鋼の技術は、1990年代~2000年代にかけて発展し、特に自動車産業を中心に普及が進みました。特に、2000年代に、鉄鋼メーカーが本格的に非調質鋼の開発を加速させ、自動車部品や建築資材への適用が始まりました。

その後、カーボンニュートラルが提唱されるようになり、非調質鋼は、省エネルギー・低環境負荷につながる素材としても普及が進みつつあります。

3.非調質鋼と他の製造方法の比較

調質鋼は、調質によって、必要な強度や靭性を確保しています。

非調質鋼は、調質せずとも必要な強度や靭性が確保された素材です。

調質鋼、非調質鋼以外の製造方法として、鍛造直接焼入れ「鍛焼き(たんやき)」という方法があります。(鍛焼き後は焼き戻しが必要)また、上記以外の方法として、合金元素を添加しない炭素鋼において、鍛造後の冷却速度を調整し、非調質鋼と同様の機械的性質を得る方法があります。

それぞれの製造方法と留意点は下表の通りです。

方式 製造方法 留意点
① 調質 鍛造後に焼き入れ焼き戻しを行う 鍛造した製品の表面と内部の温度ムラを、熱処理で緩和させることができる。
②鍛焼き(鍛造直接焼入れ) 鍛造終了直後に水冷し、再加熱して焼き戻しを行う。 焼き入れ工程の省略による熱処理時間の短縮が可能。しかし焼き入れ工程のエネルギーは省略できるが、内部応力残存による製品の割れや歪みの発生や、硬度の不均一さによる加工性の低下などを防止するために、焼き戻し工程を行う必要がある。
③ 非調質鋼 合金元素を添加した非調質鋼を鍛造し、鍛造後の冷却速度を調整する。 熱処理工程を行わないのでコストを抑えられるが、冷却速度の管理が厳格で、製品が大きいものになると鍛造品の内部と表面で温度ムラが発生する。
④ 鍛造後の冷却速度調整法 合金元素を添加しない炭素鋼を鍛造し、鍛造後の冷却速度を調整し、非調質鋼と同等の機械的性質を得る。 合金元素を添加しないため、さらに厳格な温度管理が必要になる。

また、それぞれの製造方法のメリット、デメリットは下表の通りです。

方式 メリット デメリット
① 調質 表面と内部の温度ムラを緩和できる。 エネルギー消費が多い。
②鍛焼き(鍛造直接焼入れ) 焼入れ工程を省略できるので時間短縮できる 内部応力が残存し、割れ・歪みのリスクがある。
③ 非調質鋼 熱処理が不要なので、エネルギー消費を削減できる。 温度管理が厳格で、大型品はムラが生じやすい
④ 鍛造後の冷却速度調整法 熱処理が不要なので、エネルギー消費を削減できる。 合金元素を添加しないため、さらに厳格な温度管理が必要になる。

4.合金元素を添加せずに、鍛造後の冷却速度調整で必要な機械的性質を確保するには?

非調質鋼では、バナジウムなどの合金元素が添加されています。

例えば、炭素鋼にバナジウムを添加すると、以下のような効果があります。

1)フェライト粒の微細化により、強度と靭性が向上する。
2)炭化バナジウムが形成され、微細な析出物により、鋼の強度が向上する。
3)高温でも結晶粒の粗大化を抑えられ、クリープ強度が向上する。

前項でご紹介した、合金元素を添加しない炭素鋼を鍛造し、鍛造後の冷却速度を調整し、非調質鋼と同等の機械的性質を得る方法では、合金元素の添加による機械的性質の向上が望めないため、さらに厳格な温度管理が必要になります。

例えば、JIS規格(「JIS G 4051:機械構造用炭素鋼鋼材」)によると「S33C~S35C(炭素含有量0.30~0.38%)では840~890℃で焼き入れしたあと、水冷し、550~650℃で焼き戻しし、急冷すると硬さ(HBW)は167~235」と記載されています。

「水冷」とは冷却媒体が「水」であることを言います。「急冷」は「冷却そのもののスピード」を指します。

炭素含有量約0.35%のS35Cは、比較的柔らかく、加工性に優れていますが、熱処理の有無や鍛造条件、冷却スピードによって硬度は大きく変わるため、どのように冷却するかは重要なポイントです。

特に焼き入れのような熱処理における「急冷」としては、水冷だけでなく、用途や素材に応じて油冷や空冷など他の急冷方法が適している場合もあります。

川上鉄工所では、

①非調質鋼の自動車部品(月12,000本)の量産実績があります。また、非調質鋼ではない炭素鋼の温度コントロールについても量産実績があります。

②非調質鋼ではない炭素鋼の鍛造において、加熱温度、鍛造終了温度、鍛造後の冷却速度の管理、コントロールによって、非調質鋼と同等の強度を確保することが可能です。

鍛造品の冷却速度調査

なお、当社の特許技術である「スマート鍛造プロセス」も、こうした温度や冷却速度の管理、コントロールを適用した技術です。

スマート鍛造プロセスに関しましてはこちらの記事をご覧ください。

スマート鍛造プロセスの特徴

スマート鍛造プロセスとは?―径差のあるギアシャフト向け加工熱処理技術

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