ISO9001:品質マネジメントシステム(QMS)の取り組みは有効か?

川上鉄工所は、2000年4月にISO認証取得への取り組みを開始し、1年間の準備期間を経て、2001年4月にISO9002の認証を取得しました。(ISO9002は、品質マネジメントシステム(QMS)に関する国際規格の一つであり、かつてはISO9001と並んで存在していた規格です。主に製造業やサービス業の品質管理を対象とし、「設計」を含まない品質保証システムに適用されていましたが、2000年の規格改訂で、ISO9001、ISO9002、ISO9003が統合され、ISO9001:2000 として一本化されました)

創業以来、川上鉄工所は「安全作業」「点検」「安定供給」を軸とした経営を続け、特に品質管理においては自動車メーカー様から品質保証優良認定会社に指定されるなど、高い評価を受けてきました。しかし、ISOの視点から見ると、品質管理の仕組みに体系的な整備が不足しており、顧客の個別要求に応じた対応を行うに留まっていました。

企業が生産する製品やサービスの品質を一定以上の水準に保ち、すべての顧客の満足度を向上させるためには、ISO認証の取得が必要不可欠であると判断し、2000年4月に当時代表を務めていた川上陽亮から全社員にその方針が発表され、スタートしました。

思い返せば、2001年の認証取得から20年以上が経過していることになります。
製造業としてISO9001の取り組みは果たして有効なのかどうか。ふり返ってみました。

1. ISO9001の主な変遷

ISO規格には、「品質」「環境」「労働安全」「情報セキュリティ」「食品」「自動車・航空・医療」「IT」「物流」など、多岐にわたる規格があります。その中の品質マネジメントシステム(QMS)に該当する規格がISO 9001です。

ISO9001を簡単に言うと…
①品質を守るためのルール
→「同じ商品がバラバラな品質だと困るので、きちんと管理しよう!」
②世界中で使われている
→「日本だけじゃなく、世界中で共通の基準を設けよう!」
③お客様の満足を高めるための仕組み
→「ミスを減らして、より良いサービスをお客様に提供しよう!」
になります。

ISO 9001は、 もともとは製造業向けの品質管理をベースにした規格でしたが、2015年の改定で大幅に見直され、より柔軟な運用が可能になりました。

この見直しの背景には、「文書管理などISO9001の運用負荷が非常に高く、果たしてその負担に見合う成果が得られているのか?」という課題がありました。 そこで、2015年版では文書管理が簡素化されるとともに、経営層の関与の強化や、経営戦略と品質目標の連携が重視されるようになりました。

ISO9001:2015は、単なる「品質保証」の規格ではなく、経営戦略とリスクマネジメントを組み込んだ「経営品質向上の仕組み」となっています。

【ISO9001の変遷】

バージョン 改定年 主な変更点
ISO 9001:1987 1987年 初版(製造業向け品質管理がベース)
ISO 9001:1994 1994年 文書管理・手順書重視の規格
ISO 9001:2000 2000年 プロセスアプローチ導入
ISO 9001:2008 2008年 2000年版の整理・補足
ISO 9001:2015 2015年 リスクベース思考の導入、HLS適用、経営層の関与強化、文書管理の簡素化 

 

【2015年のバージョン改定の主な変更点】

ISO 9001:2015 のな変更点 内容
リスクベースの考え方 リスクと機会の評価をしっかり行う。
文書管理の簡素化 品質マニュアルの必要性を再検討(不要なら簡素化)
経営層の関与の強化 経営層の関与を強め、戦略と品質目標を連携
外部提供プロセスの管理 購買管理だけでなく、サプライチェーン全体を管理
利害関係者の概念追加 顧客だけでなく、規制機関・従業員・取引先も考慮する
プロセスアプローチの強化 PDCAサイクルを全プロセスに適用
パフォーマンス評価の強化 KPIを設定して評価する
教育・力量の管理 スキルや実務経験を重視

KPI : Key Performance Indicator(重要業績評価指標) 組織やプロジェクトの目標達成度を測定するための具体的な指標。ISO9001などで使用される具体的なKPI例として、製品不良率、返品率、顧客からの苦情数、稼働率、ダウンタイム(稼働停止時間)、納期遵守率、労働事故率、従業員満足度などが考えられる。KPIは業界や部門ごとに異なる指標が設定されますが、いずれも組織のパフォーマンス向上を目的としています。

2. ISO 9001:2015 における「パフォーマンス評価」とは?

ISO9001の2015年改定ポイントの一つに「パフォーマンス評価の強化」があります。パフォーマンス評価の目的は、定量的・定性的なデータを活用し、品質マネジメントシステム(QMS)の継続的改善につなげることです。

このパフォーマンス評価の一環として、「顧客満足の評価」があります。顧客満足の評価の目的は、以下の2点です。

(1)顧客の不満点や課題を特定し、改善策を立案して品質改善に活かす。
(2)顧客要求の変化を的確に把握し、経営戦略や経営目標に反映させる。

顧客満足を評価する方法としては、顧客ヒアリングやお客様アンケート(顧客満足度調査)などがあります。
川上鉄工所では、ISO9001の取り組みの一環として、毎年、お客様満足度調査のアンケートを実施させていただいています。

3. お客様満足度調査のアンケートの調査結果

2025年は、2月12日~3月7日にかけて、お客様満足度調査のアンケートを実施させていただきました。
質問項目は以下の6点です。

1. 製品品質について
2. 納期対応について
3. 価格対応について
4. 協力度(原価低減他)
5. 反応度(回答の早さ等)
6. 総合

本アンケートは28社のお客様に協力をお願いし、2015年は、19社から回答をいただくことができました。ご協力いただきまして、誠にありがとうございました。 (※協力度に関してはお客様毎にご要望が様々でしたのでグラフから割愛させて頂きました)

(1) お客様満足度調査の結果概要

お客様満足度調査の結果概要は下表の通りです。

今回の調査では、製品品質の満足度は、満足とやや満足を合わせて100%、納期対応は満足とやや満足を合わせて84%と製品品質と納期対応を評価いただいていることを確認できました。

(2) お客様満足度調査における自由コメント欄の内容

また、自由コメント欄の内容としては、以下などのコメントをいただきました。抜粋してご紹介いたします。

・量産開始に際して迅速にご対応いただいて助かっております。
・鍛造以外の手法も組み合わせ難しい形状に挑戦いただけると助かります。
・弊社の希望納期に毎回応えて頂きありがとうございます。
・短納期にも対応して頂き、取引開始から不適合ゼロの継続に感謝しております。
・メールマガジン、いつも拝見しております。新しい取り組みを色々されている様子がうかがえます。今後も良いお付き合いをよろしくお願いします。

改めましてご多忙の中、お客様満足度アンケートにご回答いただいたこと感謝申し上げます。
お寄せいただきましたご要望につきましては、真摯に受け止め、可能な限り改善に努めてまいる所存です。

さて、実施した、顧客満足度調査の結果から改めて気づいたことがあります。

それは、品質、納期、コストのQCDはもちろん重要ですが、結果としての品質、納期、コストだけを評価するのではなく、QCDを下支えする取り組みや社員の姿勢なども同様に重要ということです。

ISO9001の用語でいうと「プロセスアプローチ」の考え方です。

例えば
「電話口の声が元気だった」
「工場は活気があり、非常にきれい」
「役立つ情報や提案をしてくれる」
などの定性的な評価も重要な顧客評価です。

今回、お客様アンケートから、お客様アンケートは、結果だけを評価するツールではなく、自分たちのなりたい姿に向かっているかどうかを確認する手段の一つだと再認識しました。

そう考えると
「なぜ挨拶は元気よくした方がよいのか」
「挨拶は誰の何のために行うのか」

こういった疑問にも自ずと答えが出てくるように思います。
なぜ?何のために?を社内で共有することは重要と改めて気づかされました。

今回いただいたご意見の一つひとつを大切に今後とも経営品質の向上に取り組んでまいります。
今回、こうしたことに気づかされたのも、ISO9001に取り組んできたことの一つの成果と言えます。

何のためにISO9001に取り組むのか?
ISO9001を通じて何を実現したいのか?

ISO9001についても、漠然と行うのではなく、仕事の一つひとつの意味や目的を確認しながら取り組むことが成果につながるポイントと言えるのではないでしょうか。

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川上朋弘のプロフィール画像

記事を書いた人:川上 朋弘

(株)川上鉄工所 代表取締役

2007年(株)川上鉄工所入社、2022年代表取締役就任。
金型設計の奥深さに魅せられ、鍛造現場の職人たちの卓越した技術に感銘を受ける。
「アイディアを形にする鍛造の魅力」をより多くの人に伝えたいという想いから、情報発信を続けている。

保有資格:1級一般熱処理技能士