鍛造とは?圧延とは?それぞれの利点と欠点は?TMCPとは?

金属加工は、金属材料を元に製品や部品を作る技術であり、目的や用途に応じて、さまざまな種類があります。川上鉄工所は、鍛造の会社ですが、鍛造以外の加工方法の一つに、圧延があります。「鍛造」と「圧延」の共通点は、どちらも塑性加工であるという点です。

塑性加工とは、金属などの材料に外力を加えて形を作る加工方法のことを指します。「鍛造」と「圧延」の違いについて解説します。

 

1.鍛造とは?-成形と鍛錬の両方の要素が含まれる

まず、鍛造(たんぞう:forging)とは、金属に圧力を加えて形状を変える加工方法です。具体的には、金属を高温に加熱し、ハンマーやプレス機で叩いたり、押しつぶしたりして、目的の形に成形します。

「鉄は熱いうちに打て」の言葉の通り、材料を高温に熱し、冷めないうちに、金属を鍛えながら形を変えるのが、鍛造です。鍛造は、古代から存在する技術であり、例えば、鍛冶屋が鉄を打ち鍛えて刀や工具を作る光景は、歴史の教科書などで目にしたことがあるかもしれません。

鍛造では、ハンマーやプレス機といった設備で金型を用いて、金属を強く叩きながら成形する過程で、金属内部の結晶構造が密になり、強度や靭性が向上します。

その結果、鍛造された部品は非常に強くなります。そのため鍛造は、例えば、自動車のクランクシャフトや航空機の部品など、高強度が求められる製品に使用されています。

つまり、鍛造には「成形」と「鍛錬」の両方の要素が含まれていると言えます。

鍛造には「自由鍛造(フリー鍛造)」と「型鍛造」があります。自由鍛造は金属を鍛錬し、自由な形に叩き成形するのに対し、型鍛造は特定の部品の形に成形するために金型(製品形状が彫刻された金型で上型と下型がある)を使用します。

中でも、金属を加熱して行う鍛造を「熱間鍛造」と言います。

2.圧延とは?-金属の厚さを均一にする加工

一方、圧延(あつえん:rolling)は、回転するロールの間に材料を一回または複数回通し、高い圧力を加えて延ばす塑性加工法です。高い圧力を加えて延ばすことから、圧延は均一な厚さの製品を作るのに優れています。

山陽特殊製鋼株式会社(こちらからご覧いただけます)の「特殊鋼鋼材の製造工程」によると、丸棒・棒鋼を製造する際は、原材料を溶解・精錬し、連続鋳造でブルームを製造した後に、圧延して製造しています。ブルームとは、断面がほぼ正方形の大型長方形の鋼片のことです。

【丸棒・棒鋼の製造工程】

原材料の溶融・精錬 → 連続鋳造で鋼材(ブルーム)製造 → 圧延

なお、圧延で使用される鋼材(鉄鋼製品になる一歩手前の半製品)は、形鋼製品用はブルームと言いますが、板製品用であればスラブ、線材製品用はビレットと呼ばれます。

圧延の特長は、加工領域(長さ×幅)が比較的狭いため、ハンマーやプレスなどのように複雑な形状を作る場合と比べて、必要な荷重が小さい点が挙げられます。また、加工領域を圧延方向に連続的かつ高速で移動する加工と搬送を同時に行えるため、大量生産に適しています。

圧延によって造られる形状としては、薄鋼板、厚板など厚さを均一にした四角形の断面形状だけでなく、H形鋼や、鋼管(パイプ)、などの複雑な形状もあります。

なお、鋼材の材料は、炉によって異なります。高炉の場合は鉄鉱石やコークス、石灰石が原材料です。電炉の場合は、建物や自動車の解体などで発生した鉄くずや工場で鋼材を加工した時に発生する端材などの鉄スクラップが原材料となります。

(ちなみに、鍛造で使用される材料は一般的に圧延された材料でも、丸棒・棒鋼を使用することが多いです)

3.鍛造と圧延、それぞれの利点と欠点

では、鍛造と圧延の利点と欠点はそれぞれどんな点でしょうか。

鍛造の利点は、非常に高い強度と靭性を持つ部品を作れる点です。また、複雑な形状を成形することができるため、機械部品などの製造に適しています。

しかし、鍛造は一般的にコストが高く(部品の形状や仕様に左右されます)、製造時間がかかる(何度も繰り返し叩いて製造するため)ことが欠点です。

圧延の利点は、均一な厚さで大量生産が可能な点です。また、冷間圧延により、高精度な製品を作ることができます。一方、圧延は形状に制約があります。

【鍛造と圧延の違いまとめ】

  鍛造 圧延
加工方法 高温で熱した金属を、叩いて形を整える加工法。ハンマーやプレス機で力を加え、金属の内部構造を引き締めつつ形を変える。 金属を圧縮ロールの間に通して、薄く伸ばして形を整える加工法。圧延することで、金属板や金属棒などの製品を作り出す。
特徴 金属の内部の結晶構造が細かくなるため、耐久性や強度が向上する。そのため、部品の強度が必要な部位によく使われる。(エンジンのクランクシャフトやミッション部品など) 厚みが均一かつ、大量生産に適している。
連続して金属を薄く延ばすことができるため、薄く幅の広い製品を大量に、効率よく生産することに適している。
用途 機械部品、航空機部品、工具など、高い強度と耐久性が求められるものに使われる。 板材やシート材、建設資材や自動車のパーツなど均一な厚みが求められるものに使われる

4.熱間加工条件と材質変化に関する研究結果

なお、熱間加工条件と材質変化に関する研究は、かなり昔から行われていたようです。その古い例の一つとして、オーストリアの技師サットマンによる「物理的な原因による軟鋼の性質の変化」(1892年)があります。

本発表の中から、熱間加工に関する部分を要約すると、以下のようになります。

【実験概要】
・実験では、炭素含有量が0.15%と0.19%の材料を使用し、-19℃から1300℃まで冷却または加熱した。
・各温度において、材料を10mm厚から9mm厚になるよう10%の鍛造を行い、サンプルを作成した。
・作成したサンプルに対して、引張試験と曲げ試験を実施した。

結果は以下の通りです。

【結果概要】
・200℃および320℃での鍛造では、材料が硬化し、延性が低下するため、好ましくない。
・1000℃での鍛造の時が最も伸びが良く、絞りも高いため、この温度での鍛造が望ましい。
・ただし、強度を求める場合は、1000℃より低い温度で鍛造する方がよい。
(ただし顕微鏡組織に対する言及はない)

5.圧延と熱処理の組み合わせで高強度の鉄鋼製品を製造する方法―TMCP

圧延による高強度の鉄鋼製品を製造する方法は、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、Mo(モリブデン)などの元素を添加して固溶強化や析出強化を図る方法があります。

しかし、これらの強化元素の価格変動は、時に、製造コストを押し上げる要因の一つになっています。

別の方法として、熱間圧延後に空冷し、その後、加熱と冷却を組み合わせた「焼きならし」などの熱処理を行うことで、鋼の組織を制御する方法があります。

この方法は、古くから結晶粒を微細化する手段として利用されてきました。この方法では、変態点(結晶構造が変わる温度)直上の温度まで再加熱し、微細なオーステナイト粒を生成させた後、空冷して細粒オーステナイトに対応した均一かつ微細なフェライト・パーライト組織に変態させます。

フェライトの影響として、フェライトは軟らかく延性があるため、低温でも一定の靭性を保つ傾向があり、パーライトの影響として、パーライトはフェライトとセメンタイトの層状構造を持つため、フェライト単体よりも強度が高くなります。

これにより、微細なフェライト・パーライト組織は低温靭性(低温環境下でも常温時と同等の性能を発揮する能力)が改善される傾向に働きます。

圧延と熱処理の組み合わせでは、どの温度でどの程度の力をかけて圧延するか、また冷却にどれくらいの時間をかけるかが重要になります。

鋼を高温状態からゆっくり冷やすと、比較的軟らかい製品が得られ、急速に冷やすと硬く強い鋼になります。この性質は、日本刀の製造工程を想像していただくとわかりやすいかもしれません。

なお、この圧延と熱処理の組み合わせは、現代においては制御圧延・制御冷却(加速冷却)という技術TMCPThermo-Mechanical Control Process)として実用化されています。

金属の塑性加工には、鍛造や圧延以外にもさまざまな方法があります。例えば、転造(てんぞう)、押し出し、板金、絞りなどです。金属加工は、それぞれ用途や目的によって使い分けられており、それぞれの特徴を知ることが重要です。

川上鉄工所では、「自由鍛造(フリー鍛造)」や「型鍛造」を行っております。自由鍛造(フリー鍛造)や型鍛造についてのお問い合わせは以下の問合せフォームからお願いいたします。

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