「スマート鍛造プロセス」とは?―径差のあるギアシャフト向け加工熱処理技術

製造業界における技術革新は、私たちの日常生活に深い影響を与えています。特に自動車産業では、効率的で環境に優しい製造プロセスが昨今、特に求められています。

川上鉄工所では、サポイン事業において「スマート鍛造プロセス」という製造技術を15年以上継続して開発してきました。これは、従来の鍛造方法と比較して、時々の出荷量に対応した納期短縮、それにまつわるコスト削減や環境への配慮も可能にする画期的な技術です。

このコラムでは、スマート鍛造プロセスの特徴とその重要性について、解説していきます。

 

1. 「スマート鍛造プロセス」とは?

「スマート鍛造プロセス」とは、径差のあるギアシャフトなどの精密部品向けに開発した加工熱処理技術です。

「スマート鍛造プロセス」の大きな特徴は、鍛造と熱処理という異なる製造工程を同一ライン上で処理することで、材質の組織や結晶粒度を制御しつつ、被削性(切削加工のしやすさ)と浸炭熱処理での歪の発生を小さくし、良好な疲労特性、耐摩耗性を生み出せる点にあります。

もともと、「スマート鍛造プロセス」は、鋼材メーカーで開発された、熱加工制御 (Thermo Mechanical Control Process: TMCP) 技術を鍛造品に適用したものです。

熱加工制御 (Thermo Mechanical Control Process: TMCP) とは、鋼材の強度や靱性を向上させるための製造技術です。TMCPでは、熱処理と圧延などの機械的加工を組み合わせて、金属の結晶構造を制御し、強度や靱性を向上させるなど性能を最適化します。

熱間鍛造においては、例えば、同一ライン上で焼鈍(FIA処理:Forged Isothermal Annealing)する技術は、鍛造時の熱を利用した熱処理技術として広く知られています。一方で、鍛造品は、圧延鋼材に比べ、形状が複雑であるため、熱処理における温度、加工率、冷却の均一制御が難しく、TMCP化が阻まれてきました。

そうした中、川上鉄工所の主力製品である、自動車のメインシャフト、アウトプットシャフト、カウンターギアなどの動力伝達用ギアシャフト鍛造品は、異径状(具体的な製品の写真 → こちらからご覧いただけます)であることから、温度、加工率、冷却が不均一であるという課題がありました。この課題への解決策として開発した技術が「スマート鍛造プロセス」です。

つまり、「スマート鍛造プロセス」とは、形状の成形と同時に、圧延の加熱、加工、冷却を制御して、適切な金属組織(ミクロ組織)を造り込むTMCPの技術を鍛造品に適用した技術です。

2. 「スマート鍛造プロセス」のメリット-被削性と浸炭性の最適化

「スマート鍛造プロセス」では、フェライトという金属材料の微細な組織を調整することで、被削性と浸炭性の最適なバランスを実現しています。具体的には、フェライトの割合と結晶粒の大きさを調整することで、切削抵抗を減らし、加工しやすい鍛造品を作り出します。ちなみに、「スマート鍛造プロセス」では、連続熱処理炉で2段恒温処理を実施しています。この2段恒温処理を採用することで、フェライトを十分に析出させた後、パーライトを析出させることが可能となり、その結果、良好な被削性を実現させています。

熱処理(焼準)を実施した鍛造品とスマート鍛造プロセスを実施した鍛造品とをNC旋盤を用いたミリング加工実験を行い、①工具にかかる力、②加工面粗さ、③工具摩耗の3つの観点から加工性を比較した所、スマート鍛造プロセスを実施した鍛造品の方が
① 加工力は低く、力の増加量も小さい。
② 加工面はむしれがなく良好な面性状
③ 工具摩耗は逃げ面摩耗幅が約半分
という結果が得られました。

調査協力:岡山県工業技術センター → ホームページはこちらからご覧いただけます

また、浸炭熱処理までされた最終加工品がエンジンや駆動系ユニットに組み込まれた際、歯切り部分の摩耗や勘合性、歪や振れ、振動などをメーカーが調査を実施しています。

3. 「スマート鍛造プロセス」のメリット-環境への負荷軽減とコスト削減

「スマート鍛造プロセス」は、製品の品質向上だけでなく、製造コストの削減や環境への負荷軽減にも寄与します。従来の製造方法では、多くのエネルギーが必要であり、それに伴うCO2排出量も多くなります。

しかし、「スマート鍛造プロセス」では、製造の各ステップが最適化されるため、必要なエネルギーが大幅に削減され、CO2の排出も抑えられます。また、製造リードタイム(製品が完成するまでの時間)も短縮されるため、コスト効率も向上します。

4. 「スマート鍛造プロセス」の自動車産業への応用

この「スマート鍛造プロセス」は、自動車産業において非常に大きな可能性を秘めています。自動車の部品は、非常に高い精度と耐久性が求められるため、このプロセスによって作られる部品は、より高性能な車両を実現する鍵となると考えています。

また、省エネかつ低コストで製造できるため、環境負荷を軽減しながら、より多くの消費者に手の届く価格で提供することが可能になります。カーボンニュートラルを実現する上において将来的には、他の産業にもこの技術が広がり、さらなる技術革新が期待されます。

「スマート鍛造プロセス」についてのお問い合わせは以下の問合せフォームからお願いいたします。

問合せフォームへ

また、「スマート鍛造プロセス」を開発したサポイン事業の取り組みについては、以下の記事も合わせてご参照ください。

産官学連携による新工法開発への挑戦—川上鉄工所の「スマート鍛造プロセス」開発の軌跡