リング状の鍛造品 製造上の留意点について


川上鉄工所が製造している製品の一つに、リング形状の鍛造品(リングギヤ)があります。
リング形状の鍛造品の特徴や製造上の留意点、仕様等についてご説明します。
※当方の具体例のため、専門的な用語が一部含まれていることをご了承ください。
※ここでご紹介している事例の中には川上鉄工所で検証したもの以外も含まれます。
※一つの情報提供だとお考え頂き、責任はご自身の判断でお願いいたします。

1. リング形状の鍛造品(リングギヤ)とは?主な用途は?

川上鉄工所では、リング形状の鍛造品を製造しています。完成した製品は自動車や船舶、建設機械、農業機械などのエンジンに使われるリングギヤとなります。

川上鉄工所で担当しているのは、ギヤ素材を鍛造する工程です。鍛造により製造したギヤ素材は、その後NC旋盤を使用して材料の形状を高精度に加工されます。

具体的には、特定の刃具を用いて内径部を歯車形状に仕上げるブローチ工程、専用の刃具で歯車形状を切削する歯切加工、歯車の端面部を削り取り相手歯車との噛合いを容易にする面取り加工、歯車の表面粗度を上げて噛合い時の音を低減するシェービング工程などを経て完成となります。

2.リング形状の鍛造品(たんぞうひん)と鋳造品(ちゅうぞうひん)の違いは?

リングギヤの製造方法には、鍛造(たんぞう)以外にも鋳造(ちゅうぞう)もあります。鍛造と鋳造はそれぞれ特有のメリットとデメリットを持つ加工方法です。

(1) 鋳造(ちゅうぞう)のメリットとデメリット

鋳造とは、溶融金属(完全に溶かしたドロドロの金属)を型に流し込む製法を言います。そのため、鋳造の大きな特徴は、製品の形の自由度が高い点です。具体的には、アクセサリーから大仏まで幅広いサイズの製品を生産できます。

つまり、リング形状の鋳造品のメリットは、コストが低く複雑な形状が可能で多様な材料を使用できる点です。また、鋳造はリサイクル性にも優れています。鋳造品をもう一度溶かして形の異なる鋳造品を新たに製造できるためです。

一方で、金型の未充填やひけ巣、歪(ひずみ)といった欠陥が発生するリスクがあります。

(2) 鍛造(たんぞう)のメリットとデメリット

鍛造は、鋳造とは異なり、金属を溶かさず固体のまま成形します。鍛造には、素材の密度を高め強度や耐久性を向上させるというメリットがあります。

そのため、リング形状の鍛造品は、微細な組織構造により優れた機械的特性があります。リング形状の鍛造品は、鋳造品よりも、強度や機械的特性に優れ、表面品質や寸法精度も鋳造品に比べて高いことが多いです。

一方で、鍛造は鋳造よりもエネルギー消費が高い傾向にあります。その理由は、鍛造工程が高温での作業が必要であり、また、打撃するために大規模な機械設備を必要なためです。また、鍛造工程には、熟練技術者が必要です(打撃する設備:ハンマーの操作性に関すること)さらに、形状の自由度は鋳造より低くリサイクルして使用することもできません。

以上の鋳造と鍛造、それぞれの特性をまとめると下の表になります。

【表1 鋳造のリングギヤと鍛造のリングギヤの比較】

  鋳造のリングギヤ 鍛造のリングギヤ
製品の形状の自由度 自由度が高く複雑な形状が可能 自由度が低い
コスト 相対的に安い(相対的にエネルギー消費が少ないため) 相対的に高い(大規模な機械設備が必要かつエネルギー消費が高いため)
強度や機械的特性 金型の未充填やひけ巣、ひずみといった欠陥が発生するリスクがある。 微細な組織構造により、強度や機械的特性に優れている。表面品質や寸法精度も高いことが多い。
リサイクル性 あり なし

こうした鋳造、鍛造、それぞれの特性を踏まえて、製品用途や要求水準等に応じた製造方法を選択することが必要と言えます。

3. リング形状の鍛造品の製造上の留意点は? 

リング形状の鍛造品には、製造上の重要な注意点があります。それは、座屈(ざくつ)を防ぐことです。
座屈を防ぐためには、高さと直径の比(L/D)(ディーバイエル)を3以下に管理する必要があります。
一般的にL/Dが2.5以上になると座屈のリスクが高まります。
座屈を避けるために、工程を分割して予備据込みを行った後に仕上げ据込みを行う方法が効果的です。

4. リング形状の鍛造品の最大外径と厚み、最小外径と厚み、穴の個数は?

川上鉄工所が製造している、リング形状の鍛造品の主な仕様は下の表になります

【表2 リングギヤの最大外径と厚み、最少外径と厚み】

  外径 厚み
最大外径 Φ350 20mm
最少外径 Φ190 30mm

リング形状の鍛造品において、最大径はΦ350、厚みは20mmです。使用する材料径はΦ110です。
一方、最小外径はΦ190、厚みは30mmです。

川上鉄工所では、最大材料径Φ120までインダクションヒーターで加熱することが可能です。(材料径Φ120、材料長さ250mm、使用する材料重量 約22kgの鍛造実績あります)

さらに、最大穴径はΦ120で、一度のバリ抜きで最大6個までの穴抜きが可能です。
ただし、リング中心の穴径が大きくなるほど、歩留まりが悪化するというデメリットがあります。

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