鍛伸(たんしん)とは何か?日本の鍛冶文化から生まれた現代技術

Q: 鍛伸(たんしん、延伸加工)とは何ですか?

A: 金属を高温で加熱し鍛造設備(ハンマ)で叩いて伸ばす鍛造の基本工法で、材料の結晶組織を改善し機械的性質を向上させる重要な技術です。

関連検索語: 鍛伸, たんしん, 延伸加工, 塑性加工, 鍛造技術, 組織改善, 高歩留まり

昭和7年創業、90年もの歴史を持つ川上鉄工所では、日本古来の刀鍛冶の技術を現代の精密鍛造に活かし、特に「金属を叩いて伸ばす」鍛伸技術において独自の境地を切り開いてきました。

先人から受け継いだ職人の感覚と、積み重ねてきた技術で、85%以上という業界屈指の高歩留まりを実現しています。

こんな課題をお持ちの方におすすめ 課題

  • 材料歩留まりが悪いため、材料コストが高い
  • 特殊材料(チタン、ステンレス)の加工先を探している
  • 小ロット生産に対応してほしい

 

💡川上鉄工所の課題別解決事例①

 材料費削減・コストダウンが必要な案件 解決策

  • エアーハンマによる予備成形(鍛伸)により、一般的な70%から85%以上に歩留まり向上
  • 高歩留まり技術と熱処理を組み合わせた独自技術スマート鍛造プロセスを開発
  • 材料費を大幅削減し、環境負荷も軽減

実績例: 自動車部品(カウンターギヤ、アウトプットシャフト等)で継続的に85%以上を達成

材料歩留まり85%の実現方法についてはこちらからをご覧ください

 

💡川上鉄工所の課題別解決事例②

 特殊材料・形状の加工が必要な案件 技術力

  • 64チタンTi-6Al-4V)鍛造: 医療関連部品の量産実績
  • 異形材成形角形状から円柱状の丸棒へ成形
  • 異形材成形円柱状の丸棒を板材へ成形

鍛造対応可能材料についてはこちらからをご覧ください

 

💡川上鉄工所の課題別解決事例③

小ロット対応:

  • フリー鍛造品は1本からのご注文に対応いたします
  • 材料調達: 弊社調達または持ち込み材料でもご対応致します
  • 試験対応: 各種試験(引張試験等)にもご対応致します

対応可能サイズ:

  • 長尺材鍛伸: 材料長500mm → 鍛伸によって、最大1500mmまで鍛伸可能
  • 最小径  : Φ25から対応しております(Φ25以下は別途ご相談
  • 製品重量 : 鉄系の鍛造品はおおよそ、200g~20kg
  • チタン合金円柱状の丸棒を板形状へ成形した実績あります

チタン鍛造についてはこちらからご覧ください

 

鍛伸の基本原理

鍛伸(たんしん)は、金属材料を高温に加熱し、ハンマなどの鍛造機械で叩いて伸ばす加工法です。単純に形を変えるだけでなく、金属内部の結晶組織を改善し、機械的性質を向上させる効果があります。

川上鉄工所の実績

90年にわたる鍛造経験において、鍛伸は最も基本的でありながら最も重要な技術の一つです。適切な温度管理独自の工程設計により、素材本来の性能を大幅に引き出すことができます。

鍛伸による組織改善メカニズム

鍛伸を行うことで、以下のような組織変化が起こります:

  • 結晶粒の微細化: 特定の温度条件下で、転位を介した動的再結晶により実現される
  • 鍛流線の形成 : 圧延時に形成された鍛流線を製品形状に沿って最適化される

鍛流線とは金属材料を鍛造した際に観察される流動方向に伸ばされた繊維状の金属組織の流れ

川上鉄工所が活用する「動的再結晶」現象

重要な技術的理解:「叩くだけでは結晶粒は小さくならない」

正確なメカニズム:

  1. ひずみの導入 → ハンマで叩くことで材料にひずみ(変形)を与える
  2. 転位の発生 → ひずみにより金属内部に転位(欠陥)が大量に導入される
  3. 不安定状態 → 転位が多い状態はエネルギー的に不安定
  4. 熱エネルギー投入1100℃以上の高温で熱エネルギーを加える
  5. 転位の再配列 → 転位同士がセル構造を形成し、エネルギーを下げようとする
  6. 動的再結晶 → 安定化のため新しい小さな結晶粒が次々と生成

分かりやすく例えると:

「分かりやすく例えると: 「刀鍛冶が名刀を打つ時、力強く叩く(ひずみ)だけでも、炉で熱する(温度)だけでもダメ。両方が揃って初めて、鋼の組織が生まれ変わる。川上鉄工所の鍛伸技術は、この古来の智恵を現代工学で再現したものです」」

鍛造における技術的な理想と現実:

金属を鍛造で加工する際、最も重要なのは「どれくらい力を加えるか」と「どの温度で作業するか」のバランスです。金属内部では「転位」と呼ばれる微細な構造変化が起こりますが、理論上は、この転位の量や分布を適切にコントロールできれば、より強く、より良質な製品を作ることができます。材料の種類によって転位が最も効果的に働く温度帯が異なるため、その最適温度での加工が理想とされています。このような精密な鍛造技術は、長年の経験と深い材料理解に基づいて習得されるものです。

しかし実際の現場では、ハンマの打撃力はもとより、金型の摩耗や鍛造品に発生するキズ、組織の状態など不確定な要素が多いため、なかなか理論通りに鍛造できないのが実態です。

鍛流線に関する正確な理解

鍛流線とその最適化について

金属製品の強度に影響する「鍛流線」は、圧延という加工工程において形成されます。圧延段階では、素材を延ばす過程で鍛流線が作られ、この時点で金属内部の繊維状の流れが決まります。その後の鍛造段階では、既存の鍛流線を製品形状に沿って最適化することが重要な技術となります。

製品に対し実際にかかる力の方向と鍛流線の方向を一致させることができれば、最も強度の高い製品になります。

たとえば、同じ形状の製品であっても、鍛造の工程や加工方向によって鍛流線が横方向に流れる場合と縦方向に流れる場合があり、製品の使用時にどちらの方向に力がかかるかによって最適な鍛流線パターンが決まります。川上鉄工所では、この鍛流線を製品の力のかかる方向を考慮した鍛造工法をご提案しています。

同じ製品で写真左は横方向に鍛流線が流れるパターン、写真右が鍛流線が縦方向に流れるパターンです

技術的な意味:

「鍛造で鍛流線を作る」というより、「圧延で形成された鍛流線を、製品に最適な方向に整える」ことが川上鉄工所の技術です。

川上鉄工所の国家資格保有者が、「エアーハンマを使用した鍛伸・伸ばしが得意な会社」として川上鉄工所の鍛伸技術を支えています。長年の経験熟練した職人技に裏打ちされた、感覚的な調整や技術力が強みです。

3つの再結晶パターンと川上鉄工所の使い分け

再結晶の種類 発生タイミング 転位との関係 川上鉄工所での活用
動的再結晶(DRX) ひずみ付与と同時 転位導入→即座に再結晶
不安定→安定への変化
主力技術として活用
エアーハンマによる鍛伸で実現
静的再結晶(SRX) 変形停止後の加熱 蓄積された転位を後から解消 必要に応じて後工程で実施
メタダイナミック再結晶(MDRX) DRX直後の冷却中 DRXで生成された核が継続成長 冷却工程で自然に活用

【出典:鉄と鋼 第70  年(1984)第15号 動的再結晶の組織的特徴および静的再結晶との比較】

なぜ「ひずみ+温度」の両方が必要なのか

よくある誤解:「高温で叩けば結晶が小さくなる」

実際のメカニズム:

条件 結果 理由
高温に加熱するのみ(ひずみなし) 結晶粒が粗大化 転位がないため再結晶せず、むしろ粒成長を促進
ひずみのみ(低温) 加工硬化のみ 転位は増えるが、再結晶しない
ひずみ+高温 動的再結晶による微細化 転位が活発に動いて新しい結晶核を形成

エネルギー的な観点:

動的再結晶のメカニズムを理解するために、エネルギーの観点から見てみましょう。これは「散らかった部屋を片付ける」過程に似ています。

鍛造などの加工により転位密度が高くなった金属は、散らかった部屋のようにエネルギー的に不安定な状態にあります。この状態の金属に1100℃以上の熱エネルギーを投入すると、転位が移動可能になります。これは部屋の片付けに必要な「やる気」のようなものです。

すると転位は、より安定した配置へと再配列を始めます。これは散らかったものを整理整頓していく過程と同じです。転位の再配列や消滅が進むことで、金属内部のエネルギーは徐々に下がり、安定化に向かいます。最終的に新しい結晶核が形成され、最もエネルギーの低い状態、つまり「きれいに片付いた部屋」のような状態へと変化していきます。これが動的再結晶による結晶粒微細化の本質的なメカニズムです。

動的再結晶のメカニズムについて

  専門用語 例え話(散らかった部屋の片付け)
1 転位密度が高い状態 散らかった部屋
2 エネルギー的に不安定 物が散乱していて居心地が悪い状態
3 1100℃以上の熱エネルギー投入 片付けに必要な「やる気」
4 転位が移動可能になる 物を動かして整理できる状態
5 転位の再配列 散らかったものを整理整頓する
6 転位の消滅 不要なものを捨てる
7 エネルギーが下がる(安定化) だんだん部屋が片付いてくる
8 新しい結晶核形成 きれいに片付いた部屋の完成
9 最もエネルギーの低い状態 完璧に整理された快適な部屋
10 動的再結晶による結晶粒微細化 部屋の片付け作業全体のプロセス

機械的性質の向上

適切な鍛伸により、以下のような組織改善効果が得られます:

改善項目 鍛伸による効果 川上鉄工所での取り組み
結晶組織 結晶粒の微細化組織の均質化 材料特性に応じた最適な温度管理
内部品質 鍛流線の形成 エアーハンマの予備成形による組織改善

よくあるご質問 – 鍛伸技術について

川上鉄工所の鍛伸技術に関する疑問にお答えします

Q: 他社との主な違いは何ですか?

A: 85%以上の高歩留まりを実現する独自の工程設計が最大の特徴です。

詳細: エアーハンマによる予備鍛伸と自社での金型製作により、一般的な材料歩留まり70%に対し85%以上の高歩留まりを実現。材料費削減と環境負荷軽減を同時に達成しています。

Q: 小ロットでも対応可能ですか?

A: はい、フリー鍛造品は1本からの少量注文に対応しています。

詳細: 自社金型製作により小ロット生産でも経済的に対応可能です。弊社での材料調達、または材料の持ち込みどちらにも対応しております。各種試験(引張試験等)もご要望に応じて実施いたします。

Q: 特殊材料の対応は可能ですか?

A: 64チタン、コバルトクロム合金など多様な特殊材料に対応しています。

詳細: Ti-6Al-4Vチタンでは医療関連部品の量産実績があります。材料特性に応じた最適な加工条件設定により、高品質な鍛造品を安定供給いたします。

Q: 長尺材の鍛伸は可能ですか?

A: 材料長500mmから最大1500mmまでの鍛伸が可能です。

詳細: エアーハンマのみで鍛伸し、エアードロップハンマとの組み合わせで製品重量0.3〜25kg、最小径Φ25からに対応しております。角形状→円柱、円柱→板など特殊形状の成形も承ります。

Q: 鍛伸による材料の組織改善効果とは?

A: 動的再結晶により結晶粒の微細化と鍛流線の最適化を実現します。

詳細: 適切な「ひずみ+高温」の組み合わせで転位を導入し、動的再結晶を発生させます。これにより機械的性質が大幅に向上し、高強度・高品質な製品を実現しています。

川上朋弘のプロフィール画像

記事を書いた人:川上 朋弘

(株)川上鉄工所 代表取締役

2007年(株)川上鉄工所入社、2022年代表取締役就任。
金型設計の奥深さに魅せられ、鍛造現場の職人たちの卓越した技術に感銘を受ける。
「アイディアを形にする鍛造の魅力」をより多くの人に伝えたいという想いから、情報発信を続けている。

保有資格:1級一般熱処理技能士

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