チタンの特性とチタン鍛造の特徴

チタン材はゴルフクラブのアイアインに使われる金属です。

川上鉄工所でも近年、チタンの鍛造のご依頼を多く頂いております。

一方で、チタンは難加工材というイメージが強い材料です。ここでは、よくいただくご質問を中心に、チタンの特性やチタンの鍛造品の特徴についてまとめました。

なお、チタンの中で最もよく使われているのは、64チタン合金(Ti-6Al-4V)です。
64チタン合金は、質量分率で、アルミ(Al)が6%、バナジウム(V)が4%含まれているチタン合金です。
本ページでの「チタン」とは原則として「64チタン合金」を前提にしています。

※当方の具体例のため、専門的な用語が一部含まれていることをご了承ください。
※ここでご紹介している事例の中には川上鉄工所で検証したもの以外も含まれます。
※一つの情報提供だとお考え頂き、責任はご自身の判断でお願いいたします。

 

チタンの用途は?

『チタン』とは、元素記号「Ti」で表現される金属材料のことです。(元素記号は22番)
チタンには鋼(はがね)とは異なるさまざまな特徴があり、近年、注目されている材料の一つです。
チタンは、軽くて強い(比強度)、また耐食性がある(錆びない)等の性質が注目され、航空機部品や眼鏡、ゴルフクラブ等に活用されている素材です。また、アレルギーがほとんどなく、弾力性があり、しなやかなどの特徴から、人工骨、人工関節、人工歯根等の医療材料にも活用されています。

チタンの何がすごいの?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は高強度・軽量で、耐腐食性が優れており、生体適合性も高い材料です。
そのため、航空宇宙、医療、スポーツ用品などで幅広く使用されています。
重量1kg当たりの比強度(ひきょうど:材料の強度をその材料の密度で割った値。軽量でありながら高い強度を持つ材料は比強度が高いと言える)が高く、製品の薄肉化が可能です。

チタンは何に使われていますか?

航空宇宙、医療、スポーツ用品以外では時計、メガネフレーム、ピアス、ネクタイピンなどの装飾品やフライパン、魔法瓶、包丁などの調理器具で使われています。

チタンと鉄ではどちらが硬いですか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は一般的な鉄(鋼)よりも硬いです。
一方で、特定の高硬度鋼と比較すると、劣る場合があります。
注目すべき点は、64チタンが鉄より軽量かつ強度が高いという点です。
具体的には、鉄の比重は7.85 g/㎤であるのに対して64チタンの比重は 4.43g/㎤です。
つまり、64チタンは鉄の約 56% の軽さです。
軽量かつ強度が高いことから、多くの用途に適していますが、強度が高いゆえに加工が難しいという特徴があり、取り扱いには正確な知識が必要とされています。

材料 引張強さ 比重 比強度(引張強さ ÷ 比重)
64チタン(Ti-6Al-4V) 1400 MPa 4.43   g/㎤ 316.03
純チタン(2種) 400 MPa 4.51   g/㎤ 88.69
18-8ステンレス合金(SUS304) 520 MPa 7.93   g/㎤ 65.57
高張力鋼 1500 MPa 7.86   g/㎤ 190.84

チタンの加工が難しい理由は何ですか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は高強度であるため、切削や成形が難しく、工具の摩耗が早いです。
具体的には工具の刃先が鈍り(なまり)ます。
また、表面の酸化層は硬く加工し難いですが、 酸化層のない箇所は鋸(のこ)で切断可能です
さらに「64チタン」(Ti-6Al-4V)は熱伝導率が低く、加工中に熱が集中しやすいため、工具の刃先を冷却する冷却媒体の選定や条件出しが重要です。

チタンが高価な理由は何ですか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)が高価な理由には、採掘と精製の困難さ、高度な加工技術が必要であること、そして高品質な製品を得るための特殊な設備が必要であることが挙げられます。
また、高い需要と限られた供給も価格を押し上げる要因となっています。

チタンの欠点は何ですか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)の利用範囲が限られている理由は、高価であること、加工や溶接が難しいことが挙げられます。また各種耐熱チタン合金が開発されていますが、ジェットエンジンのような高温での利用という観点では、ニッケル基超耐熱合金の耐熱性にはかないません。

チタンは加熱するとどうなる?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)加熱すると酸化チタンの酸化膜が形成され、耐腐食性が向上します。この酸化膜は非常に硬いです。

チタンは燃えますか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は通常の形状(個体)では燃えません。
ただし、切削や研磨作業時に発生するチタン粉は、溶接火花やグラインダー火花で着火することがあります

チタンは自然発火しますか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は通常の形状(個体)では自然発火しません。

チタンは錆びますか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は非常に高い耐腐食性を持っており、通常の環境では錆びません。
特に海水や酸性環境に対して優れた耐性を持っています。

チタンは人体に安全ですか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は生体適合性が高く金属アレルギーを引き起こしにくい金属で人体に対して安全とされています。そのため、医療用インプラントや人工骨、歯科材料としても広く使用されています。
人工骨など人体に使用するものは同じ64チタンでも、不純物の少ないTi-6Al-4V   ELI(64チタン イーエルアイ:Extra Low Interstitial )が使われます。

【医療用に使用されるチタン合金の規格】

Composition(mass%) Type ASTM ISO JIS

Ti-6Al-4V

α+β

F1108(Cast)

F1472(Wrought)

ISO 5832-3

T7401-2

Ti-6Al-4V ELI

α+β

F136(Wrought)

ISO 5832-3

Ti-6Al-7Nb

α+β

F1295

ISO 5832-11

T7401-5

Ti-6Al-2Nb-1Ta-0.8Mo

α+β

F136

ISO 5832-14

 

Ti-15Mo-5Zr-3Al

β

F136

ISO 5832-14

T7401-6

(出典:「チタンの基礎と応用」(新家光雄/池田勝彦/成島尚之/中野貴由/細田秀樹編著))
※Cast:鋳造・Wrought:鍛造

チタンの鍛造の特徴や留意点にはどんな事がありますか?

「64チタン」(Ti-6Al-4V)は加熱温度が高すぎると目的とする組織が得られず、逆に低すぎると変形抵抗の上昇を招くので、鍛造可能温度領域が制限されます。従い、チタン合金の鍛造技術には金属学的知識と豊富な鍛造経験が必要とされます。また、同じ64チタン材であっても、合金元素の量によって(例えば規格値に対してAlが多いまたは少ない、Vが多いまたは少ないなど)加熱温度を見直す必要があります。よって、目的に応じた鍛造方案の策定が必要です。

また、一般的にチタン合金は、加工発熱量(打撃した時の材料の温度上昇)が大きいが、熱伝導率は鋼と比べ低く、熱容量も小さいため

・局所的に材料温度が上昇した場合、材質を劣化させる可能性がある

・金型と接した材料表面が急速に冷却され、割れの原因になることがある

ので注意が必要です。

チタンの鍛造をお考えの場合は、問合せフォームからお問合せ頂けると嬉しいです!

問合せフォームへ

※参考図書「目で見るチタンの加工」(上瀧洋明著)・「チタンの基礎と加工」(日本塑性加工学会)

64チタン(Ti-6Al-4V)鍛造品を紹介します